パーキンソン病の症状を緩和! ロボットリハビリで生活の質向上

はじめに
「パーキンソン病」と診断され身体の動かしづらさや生活の質の低下にお悩みではありませんか? パーキンソン病は完治が難しい病気ではありますが、薬物療法とリハビリテーションを組み合わせることで症状の進行を遅らせ日常生活をより良く送ることが期待できます。
近年、リハビリテーションの分野で注目を集めているのがロボットを用いたリハビリテーションです。ロボットリハビリは、従来のリハビリテーションでは難しかった集中的で反復的な運動を可能にすることでパーキンソン病の症状改善に効果が期待できます。
この記事ではパーキンソン病のロボットリハビリについて、その効果やメリット、具体的な内容、費用などをわかりやすく解説していきます。
目次
- パーキンソン病の症状と従来のリハビリテーションの課題
- ロボットリハビリとは?
- パーキンソン病患者にとってのロボットリハビリのメリット
- ロボットリハビリで期待できる効果
- ロボットリハビリの費用
パーキンソン病の症状と従来のリハビリテーションの課題

パーキンソン病は脳内の神経伝達物質であるドーパミンが減少することで発症する神経変性疾患です。 ドーパミンはスムーズな動作や体のバランスを保つために重要な役割を果たしています。ドーパミンが減少すると、脳から身体への指令がうまく伝わらなくなり様々な運動症状が現れます。
主な症状としては、以下のようなものがあります。
運動症状
- 振戦(しんせん):安静時に手足が震える症状。特に指先が小銭を数えるように動くのが特徴です。
- 筋強剛(きんきょうごう):筋肉が硬直し関節の動きが悪くなる症状。動作が遅くなったり、歩行時に腕を振るのが難しくなったりします。
- 動作緩慢(どうさかんまん):動作が遅く、ぎこちなくなる症状。
- 姿勢反射障害(しせいはんしゃしょうがい):体のバランスを保つのが難しくなり、転倒しやすくなる症状。
非運動症状
- 便秘:自律神経の働きが乱れることで便秘になりやすくなります。
- 嗅覚障害(きゅうかくしょうがい):においを感じにくくなる症状。
- 睡眠障害:夜中に何度も目が覚めてしまったり、日中強い眠気に襲われたりする症状。
- うつ症状:気分が落ち込みやすくなったり、何事にも意欲がわかない状態が続く症状。
これらの症状を改善し、日常生活の質を維持・向上させるためには、薬物療法に加えてリハビリテーションが重要です。従来のリハビリテーションでは、理学療法士などが患者さんの身体を動かしたり、運動を促したりすることで筋力や柔軟性の維持・向上、歩行能力の改善などを目指してきました。
具体的な運動としては、
- 関節可動域訓練: 関節の動く範囲を広げる運動
- 筋力トレーニング: 腕立て伏せやスクワットなど、筋肉を鍛える運動
- 歩行訓練: 歩く練習
- バランス訓練: 片足立ちなど、体のバランス感覚を養う運動
などがあります。
しかし、パーキンソン病の患者さんにとって従来のリハビリテーションには、
- 症状の進行によってリハビリテーションの効果が得られにくい: 病気の進行に伴い、筋力や体力は低下していくため、従来のリハビリテーションでは十分な効果が得られない場合があります。
- 十分な運動量を確保することが難しい: 疲労感や運動能力の低下により、十分な運動量を確保することが難しい場合があります。
- モチベーションの維持が困難: 単調な運動を繰り返すことが多く、モチベーションの維持が難しい場合があります。
といった課題も存在していました。
ロボットリハビリとは?

ロボットリハビリテーションとはその名の通りロボット技術を用いたリハビリテーションのことです。患者さんの状態や目的に合わせてプログラムされたロボットが、患者さんの身体を動かすことで効果的なリハビリテーションを実現します。
ロボットは、人間の動きを感知するセンサー、動きをサポートするモーター、そして運動プログラムを制御するコンピューターで構成されています。
パーキンソン病のロボットリハビリで用いられる主なロボットには以下のようなものがあります。
- 歩行訓練ロボット:トレッドミルの上を歩く動作をロボットがアシストすることで歩行機能の改善を図ります。歩幅や歩行速度、体重移動などを補助することで、より自然でスムーズな歩行を促します。
- 上肢リハビリロボット:腕や手の動きをロボットがサポートすることで食事や着替えなどの動作を円滑にすることを目指します。 物を掴む、持ち上げる、腕を伸ばすといった動作を繰り返し練習することで、日常生活に必要な動作の改善を促します。
- バランス訓練ロボット:不安定な足場の上でバランスを取る訓練をロボットがサポートすることで転倒リスクの軽減を図ります。 重心の移動や姿勢の制御を学習することで、バランス能力の向上を目指します。
パーキンソン病患者にとってのロボットリハビリのメリット
ロボットリハビリテーションは、従来のリハビリテーションが抱えていた課題を克服し、パーキンソン病患者さんに多くのメリットをもたらします。
- 集中的なリハビリが可能:ロボットは疲れを知らずに24時間稼働することができるため、長時間にわたり一定の負荷をかけ続けるなど集中的なリハビリテーションが可能です。これは脳の神経回路の再構築を促す「神経可塑性」を高める上で非常に重要です。パーキンソン病では、失われたドーパミンの機能を補うために脳の神経回路の再編成が求められます。集中的なリハビリは、この神経可塑性を促し脳の機能回復を促す効果が期待できます。
- 客観的なデータに基づいた評価・治療: ロボットは患者さんの運動能力やリハビリの進捗状況を客観的なデータとして記録することができます。従来のリハビリテーションでは、 リハビリ担当者の経験や感覚に頼る部分が多く、客観的な評価が難しいという側面がありました。しかし、ロボットリハビリでは、患者の動きの軌跡、速度、力などが数値化されて記録されるため、より客観的で詳細なデータに基づいた評価が可能になります。これにより、より効果的なリハビリテーションプログラムの作成や治療効果の客観的な評価が可能になります。
- ゲーム感覚で楽しくリハビリ: ロボットリハビリテーションの中には画面を見ながらゲーム感覚で楽しくリハビリテーションを行えるものも少なくありません。従来のリハビリテーションでは、単調な運動を繰り返すことが多くモチベーションの維持が課題となっていました。しかし、ロボットリハビリでは、ゲーム要素を取り入れることで楽しみながらリハビリテーションに取り組むことができ、モチベーションの維持にもつながります。
ロボットリハビリで期待できる効果
パーキンソン病の患者さんがロボットリハビリテーションを行うことで、以下のような効果が期待できます。
- 運動機能の改善:歩行速度や歩幅の改善、バランス能力の向上、腕や手の動きの改善など。ロボットによる反復練習は、脳や筋肉に刺激を与え運動機能の回復を促します。
- 日常生活動作の改善:歩行、階段昇降、着替え、食事などの動作がスムーズに行えるようになる。日常生活に必要な動作を繰り返し練習することで動作の正確性やスピードが向上し、スムーズな動作が可能になります。
- 転倒リスクの軽減:バランス能力や筋力が向上することで、転倒のリスクを減らすことができます。パーキンソン病の患者さんは、姿勢反射障害などのため転倒リスクが高いと言われています。バランス訓練ロボットを用いることで、安全な環境下で集中的なバランス訓練を行うことができ転倒リスクの軽減につながります。
- QOL(生活の質)の向上: 運動機能や日常生活動作が改善することで外出や趣味など、より活動的な生活を送ることができるようになりQOLの向上につながります。パーキンソン病は、患者さんの生活の質を大きく低下させる可能性のある病気です。しかし、ロボットリハビリによって運動機能や日常生活動作が改善することで、自信を取り戻し、より積極的に生活を送ることができるようになります。
ロボットリハビリの費用
ロボットリハビリテーションは医療機関によって費用が異なります。保険適用外となる場合が多く、全額自己負担となるケースもありますが、一部の医療機関では公的補助制度を利用できる場合があります。
費用や補助制度については、事前に医療機関に確認することをおすすめします。
まとめ
パーキンソン病は、運動機能の低下や生活の質(QOL)の低下を引き起こす進行性の病気ですが、適切な治療とリハビリテーションにより症状の改善や進行の遅延が期待できます。その中でも、近年注目されているロボットリハビリテーションは従来のリハビリの課題を克服し、効果的な運動療法を提供する新しい選択肢です。
ロボットリハビリは、歩行訓練・上肢運動・バランス訓練などさまざまなプログラムを通じて、患者さん一人ひとりに適したサポートを行います。特に集中的な反復運動やゲーム要素を取り入れた楽しみながらの訓練、データを活用した客観的な評価などの利点により、従来の方法よりも継続しやすく、高いリハビリ効果が期待できます。
ロボットリハビリによる主な効果として、運動機能の改善、日常生活動作の向上、転倒リスクの軽減が挙げられます。それにより、外出の機会が増えたり趣味を楽しめたりと生活の質の向上につながる可能性があります。
ただし、ロボットリハビリは医療機関や提供サービスによって費用が異なり、保険適用外となる場合もあるため事前に確認が必要です。
パーキンソン病と共に前向きに生きるために、ロボットリハビリを取り入れてみるのも一つの方法です。まずは、専門医やリハビリの担当者と相談し、自分に合った治療・リハビリの選択肢を検討してみましょう。

執筆者:池田
理学療法士
理学療法士の池田です。
2018年に理学療法士免許を取得し大学を卒業後、回復期病院のリハビリテーション病棟にて勤務。2021年に急性期病院の脳外科病棟にて勤務。2022年に訪問リハビリにて勤務。2025年より脳神経リハビリHL堺にて勤務となります。
回復期病院では、疾患の知識や治療技術の勉強に励み、外部研修に積極的に参加。
急性期病院では、脳外科病棟にて勤務。脳血管疾患のリハビリに従事し、発症間もなくの患者様の回復状況を予測する為の研究に参加。
訪問リハビリでは、日常生活状況に合わせたリハビリや住宅環境の相談など介入。
リハビリでは、本人様にとって安心して出来る日常生活動作を増やして行くと共に、特に歩ける生活を大事にしたいと考えます。よりよい生活が送れるように全力で援助をさせて頂きます。