AI時代でも色褪せない、人の手によるリハビリの価値

はじめに
脳卒中後のリハビリは、回復への道のりにおいて非常に重要です。AIやロボット技術が進歩する現代においても「人の手」によるリハビリは、決して色あせない価値を提供し続けます。今回はAI技術やロボット技術との比較を交えながら、理学療法士によるリハビリがもたらす5つの重要な価値に焦点を当て脳卒中回復に取り組む皆様をサポートします。

目次
- 一人ひとりの回復に寄り添うオーダーメイドのリハビリ
- 「触れる」ことで感じる脳と身体の再接続
- 回復を支える共感と励ましの力
- 目標達成を後押しする専門知識と経験
- 社会復帰を支援する多職種連携の中心
1. 一人ひとりの回復に寄り添うオーダーメイドのリハビリ

脳卒中は、脳の損傷部位や範囲、発症前の年齢や体力、生活習慣などによって後遺症や回復過程が大きく異なります。そのため、画一的なリハビリプログラムではなく、患者様一人ひとりの状態に合わせたオーダーメイドのアプローチが欠かせません。
AIを活用したリハビリシステムやロボットリハビリでは、膨大なデータに基づいてある程度の個別対応が可能になってきました。例えば、患者様の腕の動きのパターンをAIが分析し、より効果的な運動をロボットが補助してくれるといったケースです。
しかし、患者様の些細な変化やニーズを瞬時に汲み取り、その場でプログラムを柔軟に調整することはまだ人間の領域です。
例えば、理学療法士は、関節の動き方、筋の緊張の度合い、体重の掛け方、顔色や表情、呼吸の状態など、五感を研ぎ澄ませて観察し、その場でプログラムの内容や難易度を調整します。AIでは検知できないような、わずかな体の動きや表情の変化から患者様の状態を総合的に判断し、最適な介入を行うことが理学療法士の重要な役割と言えるでしょう。
2. 「触れる」ことで感じる脳と身体の再接続
「触覚」は脳卒中後のリハビリにおいて非常に重要な役割を担っています。理学療法士は患者様の体に直接触れることで、
- 麻痺側の感覚入力の促進
- 異常な筋緊張の緩和
- 正しい関節運動の誘導
- バランス能力の向上
などを図ります。
例えば、関節の位置や動きを伝える「徒手抵抗運動」、筋肉や皮膚に刺激を与える「マッサージ」、バランス能力を養う「体位変換」などどれも「人の手」による繊細な触感が欠かせません。
ロボットリハビリにおいても、近年では触覚センサーを搭載し患者様の状態をより細かく把握できるようになってきています。しかし、触覚を通じて得られる情報量や患者様の状態に合わせた微妙な力加減の調整はまだまだ人間の域に達していません。
理学療法士による「触れるリハビリ」は、単なる運動機能の改善だけでなく、脳と身体の再接続を促し患者様の感覚や運動のイメージを回復させる効果も期待できます。
3. 回復を支える共感と励ましの力
脳卒中からの回復は長く険しい道のりです。モチベーションを維持し続けることは容易ではありません。時には不安や焦りを感じてしまうこともあるでしょう。
理学療法士は患者様とのコミュニケーションを通して、
- 現在の体の状態やリハビリの進捗状況をわかりやすく説明する
- 目標達成までのプロセスを一緒に考え、具体的な計画を立てる
- リハビリに対する不安や疑問に寄り添い、解消する
- 辛さや苦しみに共感し、励ましの言葉を伝える
など精神的なサポートも行います。
ロボットリハビリは、決められたプログラムを正確にこなせるというメリットがありモチベーション維持に役立つ側面もあります。しかし、患者様の気持ちに寄り添い、共感し、励ますことができるのは人間にしかできないことです。
理学療法士との信頼関係を築き、安心してリハビリに取り組める環境は患者様のモチベーション向上に大きく貢献します。
4. 目標達成を後押しする専門知識と経験
理学療法士は、解剖学、生理学、運動学、脳科学などの専門知識と臨床経験に基づいた豊富なリハビリ技術を持っています。
患者様一人ひとりの状態を的確に評価し、
- 運動機能回復のための適切な運動プログラム
- 日常生活動作(ADL)の改善に向けた個別指導
- 福祉用具の選定や住宅改修のアドバイス
など多岐にわたるサポートを提供します。
AIやロボットは、膨大なデータから最適な治療法を提案したり反復練習を補助したりすることができます。しかし、患者様の生活背景や価値観、目標を理解し、状況に合わせてリハビリプログラムを柔軟に変更することは難しいのが現状です。
理学療法士は「患者様の人生」という視点に立って、専門知識と経験を駆使し、その人らしい生活を送るために必要なサポートを提供します。
5. 社会復帰を支援する多職種連携の中心

脳卒中後のリハビリは理学療法士だけで完結するものではありません。医師、看護師、作業療法士、言語聴覚士、ソーシャルワーカーなど様々な専門職が連携し、チームで患者様をサポートします。
理学療法士は、その一員として役割を担っており、
- 各専門職との情報共有や連携をスムーズに行う
- 患者様やご家族の状況を把握し、必要な支援につなぐ
- 地域の医療機関や介護施設との橋渡し役となる
など社会復帰を支援する上で重要な役割を担います。
AI技術は医療現場における情報共有や連携を効率化する可能性を秘めていますが、顔と顔を合わせてコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことの重要性は今後も変わることはないでしょう。
理学療法士は患者様を支えるチームの一員として、多職種と連携しながら社会復帰という最終ゴールを目指します。
まとめ
AIやロボット技術の進化は目覚ましく、医療分野においても大きな変革が期待されています。リハビリテーション医療においても、ロボットリハビリは反復練習や体力向上など従来のリハビリを補完する有効な手段として期待されています。
しかし「人の手」による介入は今後も決してなくなることはないでしょう。患者様一人ひとりの状態を五感で感じ取り、ニーズに寄り添いながら、身体機能の回復だけでなく、心のケアまで行うことができるのは人間にしかできないことです。
理学療法士は、AI技術やロボット技術を有効活用しながら、人間ならではの温かみや共感を大切にすることで「患者様の人生に寄り添うリハビリ」を提供し続けていきます。

執筆者:池田
理学療法士
理学療法士の池田です。
2018年に理学療法士免許を取得し大学を卒業後、回復期病院のリハビリテーション病棟にて勤務。2021年に急性期病院の脳外科病棟にて勤務。2022年に訪問リハビリにて勤務。2025年より脳神経リハビリHL堺にて勤務となります。
回復期病院では、疾患の知識や治療技術の勉強に励み、外部研修に積極的に参加。
急性期病院では、脳外科病棟にて勤務。脳血管疾患のリハビリに従事し、発症間もなくの患者様の回復状況を予測する為の研究に参加。
訪問リハビリでは、日常生活状況に合わせたリハビリや住宅環境の相談など介入。
リハビリでは、本人様にとって安心して出来る日常生活動作を増やして行くと共に、特に歩ける生活を大事にしたいと考えます。よりよい生活が送れるように全力で援助をさせて頂きます。