高次脳機能障害と就労について

はじめに
病気やけがで脳に損傷を受けたあと、退院後の生活のなかで「また働きたい」「社会と関わりを持ちたい」と願う方は多くいらっしゃいます。
その中で壁になるのが、高次脳機能障害です。
今回は、この障害がある方が仕事を続けるうえでどんな課題があるのか、そして乗り越えるための具体的な対策について、理学療法士の視点からお伝えしていきます。
目次
- 高次脳機能障害とはどんな状態か?
- なぜ仕事が続けにくくなるのか?
- 仕事を続けるために大切な工夫と支援制度
- 周囲との連携が未来をつくる

高次脳機能障害とはどんな状態か?
高次脳機能障害とは、交通事故や脳卒中などで脳に損傷を受けた結果、日常生活や社会生活に影響が出る状態を指します。
身体には異常がないように見えても、実際には「記憶する力」「集中する力」「段取りを立てる力」「人と関わる力」などがうまく働かなくなることがあります。
例えば、こんな場面で困ることがあります。
- さっき聞いたことをすぐに忘れてしまう
- 仕事中に集中が切れて、他のことが気になってしまう
- 手順通りに作業ができず、やり方を何度も間違えてしまう
- 相手の気持ちを汲んで行動するのが難しく、誤解されることがある
これらの症状があることで、仕事に取り組むことが難しくなり、続けられなくなるケースも少なくありません。
なぜ仕事が続けにくくなるのか?
高次脳機能障害を抱える方が就労を続けるには、実際にはいくつもの壁があります。
まずひとつは「新しいことを覚えるのが難しい」という点です。
仕事は日々変化し、業務のやり方やルールも更新されていきますが、それを記憶するのが困難なため、周囲との差が開いてしまうことがあります。
また、「指示の内容をうまく理解できない」「言われたことと違うことをしてしまう」といった混乱も生じやすいです。
自分ではきちんとやっているつもりでも、思い通りにいかないことが続くと、自信を失ってしまう方もいます。
さらに、「臨機応変な対応が苦手」なことも挙げられます。
職場では予想外の出来事が起きるのが当たり前ですが、それに対応する力が弱くなっているとストレスが強くなってしまい、長く働くことが難しくなるのです。

仕事を続けるために大切な工夫と支援制度
では、そんな中でも「働きたい」という気持ちをあきらめずに、どうすれば就労を継続できるのでしょうか。
実は、さまざまな工夫や制度を使うことで、無理なく仕事を続けることが可能になります。
まず大切なのは、「働きやすい職場環境を選ぶこと」です。
たとえば、静かで集中しやすい空間や、こまめに休憩が取れる時間配分、仕事内容が明確に決められている職場などが挙げられます。
上司や同僚が障害について理解し、サポートしてくれる職場であれば、より安心して働くことができます。
また、「公的な支援制度の利用」も非常に有効です。
障害年金、障害者手帳、傷病手当金、さらには生活保護などの経済的な負担を軽くする制度が整っています。
治療やリハビリに集中するためにも、こうした制度を上手に活用することが大切です。
さらに、「就労支援サービス」を利用するのもおすすめです。
ハローワークには障害者専門の相談窓口があり、希望に合った職場を紹介してもらうことができます。
民間の障害者就労エージェントでも、職場探しから面接対策、就職後のフォローまでサポートを受けられるところが増えています。
周囲との連携が未来をつくる
高次脳機能障害は目に見えにくく、本人ですら気づきにくい部分があります。
そのため、自分の苦手なこと・得意なことを理解し、それを職場や支援者にしっかり伝えることが、安定した就労生活の第一歩です。
家族、主治医、リハビリスタッフ、就労支援員など多くの人の力を借りることで、自分に合った働き方が見えてきます。
ひとりで抱え込まず、相談しながら進んでいくことが大切です。

まとめ
高次脳機能障害があっても、工夫や支援を受けながら働くことは可能です。
自分の状態をしっかり理解し、適した環境や制度を選ぶことで、就労をあきらめずに続けることができます。
「もう一度、社会とつながりたい」「自分の力を発揮したい」という想いを持っているあなたへ。
私たち専門職ができる限りのサポートをしながら、一歩ずつ未来を築いていけるよう、一緒に考えていきましょう。
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執筆者:池田
理学療法士
理学療法士の池田です。
2018年に理学療法士免許を取得し大学を卒業後、回復期病院のリハビリテーション病棟にて勤務。2021年に急性期病院の脳外科病棟にて勤務。2022年に訪問リハビリにて勤務。2025年より脳神経リハビリHL堺にて勤務となります。
回復期病院では、疾患の知識や治療技術の勉強に励み、外部研修に積極的に参加。
急性期病院では、脳外科病棟にて勤務。脳血管疾患のリハビリに従事し、発症間もなくの患者様の回復状況を予測する為の研究に参加。
訪問リハビリでは、日常生活状況に合わせたリハビリや住宅環境の相談など介入。
リハビリでは、本人様にとって安心して出来る日常生活動作を増やして行くと共に、特に歩ける生活を大事にしたいと考えます。よりよい生活が送れるように全力で援助をさせて頂きます。