脳血管疾患における高次脳機能障害のリハビリテーション

はじめに
脳血管疾患、特に脳卒中(脳梗塞や脳出血)は、運動麻痺や感覚障害といった症状に加え、高次脳機能障害を引き起こす主要な原因の一つです。高次脳機能障害とは、記憶、注意、遂行機能、言語、社会的行動などの脳の機能に障害が生じる状態を指します。これらの障害は、日常生活や社会生活に大きな支障をきたし、患者本人だけでなく家族や周囲の人々にも多大な影響を与えます。
しかし、適切なリハビリテーションを行うことで、失われた機能の回復や残された機能を最大限に活かすことが可能です。今回は、脳血管疾患における高次脳機能障害のリハビリテーションに焦点を当て、その重要性や具体的な方法について詳しく解説します。

目次
- 高次脳機能障害とは?その種類と原因について
- 脳血管疾患における高次脳機能障害の特徴
- 目的と方法
- 具体的な訓練例
- 時期と継続の重要性
- 家族のサポート
- 社会資源の活用
- 諦めずに一歩ずつ
高次脳機能障害とは?その種類と原因について
高次脳機能障害は脳の損傷や病気によって引き起こされる様々な認知機能の障害の総称です。
高次脳機能障害の種類
高次脳機能障害には、以下のような種類があります。
- 記憶障害:新しい情報を覚えたり、過去の出来事を思い出したりすることが難しくなります。
- 注意障害:集中力や注意を持続させることが難しく、複数のことを同時に行うことが困難になります。
- 遂行機能障害:計画を立てる事や段取りを組む事、目標に向かって行動したりする事が難しくなります。
- 言語障害:言葉を理解したり、話したりすることが難しくなります。
- 視空間認知障害:図形や地図を理解したり、空間認識能力が低下したりします。
- 社会的行動の障害:感情のコントロールが難しくなったり、周りの状況に合わせた行動がとれなくなったりします。
高次脳機能障害の原因
高次脳機能障害の主な原因は以下の通りです。
- 脳血管障害(脳卒中):脳梗塞や脳出血によって脳の一部が損傷し、高次脳機能障害を引き起こすことがあります。
- 外傷性脳損傷:交通事故や転倒などによる頭部外傷によって脳が損傷し、高次脳機能障害を引き起こすことがあります。
- 低酸素脳症:心停止や呼吸停止などによって脳に十分な酸素が供給されなくなり、高次脳機能障害を引き起こすことがあります。
- 脳腫瘍:脳に腫瘍ができ、周囲の脳組織を圧迫したり破壊したりすることで、高次脳機能障害を引き起こすことがあります。
- 脳炎・髄膜炎:脳や脊髄の炎症によって、高次脳機能障害を引き起こすことがあります。
脳血管疾患における高次脳機能障害の特徴
脳血管疾患による高次脳機能障害は、その原因となる疾患や損傷部位によって症状が異なります。
脳梗塞
脳梗塞の場合、損傷部位によって様々な症状が現れます。高次脳機能障害としては、言語障害、注意障害、遂行機能障害などが多く見られます。
脳出血
脳出血の場合、出血部位や量によって症状が異なります。高次脳機能障害としては、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、感情のコントロール障害などが多く見られます。
その目的と方法
高次脳機能障害のリハビリテーションは、患者さんが可能な限り自立した生活を送れるように支援することを目的としています。
リハビリテーションの目的
- 失われた機能の回復
- 残された機能の最大活用
- 代償手段の獲得
- 社会適応能力の向上
リハビリテーションの方法
高次脳機能障害のリハビリテーションは、多職種連携(医師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、心理士、ソーシャルワーカーなど)によるチーム医療で行われます。
- 薬物療法:認知機能を改善する薬や精神症状を緩和する薬などが用いられます。
- 理学療法:身体機能の回復や維持、基本的な動作能力(立つ、歩くなど)の向上を目指します。
- 作業療法:日常生活動作に必要な応用的な動作能力(箸を使う、服を着るなど)の向上を目指します。
- 言語療法:言語理解や表現能力を高めるための訓練(会話練習、読書、書字練習など)を行います。
- 高次脳機能リハビリテーション:記憶、注意、遂行機能などの認知機能を高めるための訓練を行います。
- 心理療法:認知行動療法やカウンセリングなどを行い、心理的なサポートを行います。
具体的な訓練例
高次脳機能障害の種類や症状に合わせて、様々な訓練が行われます。
記憶障害に対する訓練
- フラッシュカード
- 日記
- スケジュール管理
- メモ、アラーム、ICレコーダーなどの活用
注意障害に対する訓練
- 数字探し
- 間違い探し
- 課題遂行
- 注意散漫になりにくい環境の整備
遂行機能障害に対する訓練
- 料理
- 買い物
- 旅行計画
- タスクリスト、手順書などの活用
言語障害に対する訓練
- 会話練習
- 読書
- 書字練習
- 手話、絵カードなどの活用

時期と継続の重要性
高次脳機能障害のリハビリテーションは、早期から集中的に行うことが効果的です。急性期から回復期、そして維持期へと患者さんの状態に合わせて適切なリハビリテーションを提供し続けることが、高次脳機能障害からの回復を促すために不可欠です。
家族のサポート
高次脳機能障害のリハビリテーションには、ご家族のサポートが不可欠です。
理解と受容
高次脳機能障害について理解し、患者さんの気持ちに寄り添うことが大切です。
協力と連携
リハビリテーションの目標を共有し、共に取り組むことが大切です。
社会資源の活用
高次脳機能障害の方やご家族を支援する様々な制度やサービスがあります。
- 障害者手帳
- 障害年金
- 医療費助成
- 相談支援
- 介護保険サービス
これらの社会資源を積極的に活用することで、経済的な負担を軽減したり、専門家のサポートを受けることができます。
諦めずに一歩ずつ
高次脳機能障害のリハビリテーションは、諦めずに一歩ずつ努力を重ねることで必ず改善は見込めます。
ご本人だけでなく、ご家族や周りの方々も「焦らず、温かく寄り添い」共にリハビリテーションに取り組むことが大切です。

まとめ
脳血管疾患による高次脳機能障害は、記憶、注意、遂行機能、言語、空間認知といった脳の高度な機能に影響を及ぼし、日常生活や社会生活に大きな支障をきたす可能性があるものの適切なリハビリテーションを早期から集中的に行うことで、失われた機能の回復や残された機能の最大限の活用が可能となります。
高次脳機能障害のリハビリテーションは、急性期から回復期、そして維持期までの各段階に応じたプログラムを多職種連携によるチーム医療で提供することが重要であり、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、臨床心理士など様々な専門家がチームとなって患者をサポートします。
ご家族のサポートもリハビリテーション効果を高める上で非常に重要であり、患者の精神的な支えとなるだけでなく、リハビリテーションの継続や日常生活での工夫を促す役割も担います。
高次脳機能障害からの回復には時間と努力が必要で、思うように進まないこともあるかもしれませんが、諦めずに一歩ずつ努力を重ねることで、必ず自分らしい生活を取り戻すことができます。

執筆者:池田
理学療法士
理学療法士の池田です。
2018年に理学療法士免許を取得し大学を卒業後、回復期病院のリハビリテーション病棟にて勤務。2021年に急性期病院の脳外科病棟にて勤務。2022年に訪問リハビリにて勤務。2025年より脳神経リハビリHL堺にて勤務となります。
回復期病院では、疾患の知識や治療技術の勉強に励み、外部研修に積極的に参加。
急性期病院では、脳外科病棟にて勤務。脳血管疾患のリハビリに従事し、発症間もなくの患者様の回復状況を予測する為の研究に参加。
訪問リハビリでは、日常生活状況に合わせたリハビリや住宅環境の相談など介入。
リハビリでは、本人様にとって安心して出来る日常生活動作を増やして行くと共に、特に歩ける生活を大事にしたいと考えます。よりよい生活が送れるように全力で援助をさせて頂きます。