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脳血管疾患における三角巾の役割

脳血管疾患における三角巾の役割

はじめに

脳卒中などの脳血管疾患を経験した方にとって、退院後のリハビリは身体機能の回復にとても重要です。
中でも、麻痺側の腕をいかに安全に管理するかが、回復の質に大きく関わってきます。
そこで登場するのが「三角巾」です。
三角巾は一見、シンプルな布のように見えますが、実はリハビリテーションにおいて多くの役割を果たす、大切なサポートツールです。

このブログでは、三角巾が持つ効果や注意点、またその使用によって起こり得る弊害、さらに筋力低下を防ぐための工夫について、理学療法士の視点からわかりやすく解説していきます。

目次

  • 三角巾の基本的な役割とは?
  • 使用時に気をつけたいポイント
  • 知っておきたい三角巾の弊害
  • 筋力低下を防ぐためにできる工夫

三角巾の基本的な役割とは?

三角巾は、特に脳卒中による片麻痺のある方にとって麻痺側の腕を保護するために用いられます。
リハビリ中に腕が不用意にぶら下がった状態になるのを防ぐことで、いくつかの重大な問題を避けることができます。

たとえば、腕の重さによって肩関節が下に引っ張られると「肩手症候群」や「肩の亜脱臼」といった合併症を引き起こすリスクがあります。
三角巾を使って腕をしっかり支えることで、これらのリスクを軽減できるのです。
また、移動や着替え、トイレなど日常生活の中で身体を動かす際にも、麻痺側の腕が安定していれば動作がスムーズになります。

加えて、三角巾は腕を安静に保つためにも使われます。
骨折や関節への負担を避けたい時、腕の重さそのものが組織へのストレスになってしまうことがあるため、サポートが不可欠です。

使用時に気をつけたいポイント

便利な三角巾ですが、正しく使わなければ逆に痛みを引き起こしてしまうこともあります。
たとえば、装着の位置がずれていると肩の高さがアンバランスになり、首や肩まわりに余計な負担がかかることがあります。
そのため、理学療法士などの専門家に正しい装着方法を教わることが大切です。

また、三角巾は長時間つけっぱなしにするものではありません。
ずっと固定されている状態では、筋肉が使われず、回復が遅れてしまうことがあります。
必要なときに使用し、不要なときには外して、適度に動かすこともリハビリの一部です。

さらに、自分一人でうまく装着できない場合は、無理をせず誰かにサポートしてもらいましょう。
特に片麻痺のある方にとっては、肩の位置やバランスを保つのが難しいため、サポートの質がとても重要です。

知っておきたい三角巾の弊害

三角巾は便利な反面、使い方によっては新たな問題を引き起こしてしまうこともあります。
たとえば、長時間にわたって腕を同じ姿勢で固定してしまうと関節が硬くなり「拘縮(こうしゅく)」という状態になることがあります。
これは関節の動く範囲が狭くなってしまう症状で回復の妨げになることもあります。

また、固定されていると筋肉が働かなくなり、三角筋や肩甲帯の筋力が徐々に落ちていきます。
これにより、腕を支える力が弱まり、ますます動かしにくくなるという悪循環が起きてしまうのです。

さらには、腕を使わない時間が増えることで、その存在を脳が忘れてしまう「身体認識の低下」も問題になります。
リハビリの本質は「使いながら回復させること」にあるため、三角巾に頼りきりになるのは望ましくありません。

また、見た目や感覚的に「三角巾がないと不安」という心理的依存が生まれ、精神的なストレスとなってしまう場合もあります。
姿勢が偏ることで歩行や立ち上がりの動作に影響するケースもあるため、総合的な視点での使用判断が求められます。

筋力低下を防ぐためにできる工夫

三角巾の使用中でも、筋力をできるだけ保つためにはいくつかの工夫が必要です。
まずは、理学療法士の指導のもとで麻痺側の腕を定期的に動かすことが重要です。
たとえば、ベッド上での寝返りや座る練習、簡単なストレッチを取り入れるだけでも、筋肉の緊張や関節の動きを保つ助けになります。

また、「課題指向型訓練」と呼ばれる、日常生活の動きを模した訓練を行うことで、自然な形で麻痺側の腕を使う機会を増やすことができます。
さらに、神経筋電気刺激(NMES)を用いる電気刺激療法も、筋肉への刺激を与えて筋力低下を防ぐ方法として効果的です。
これは、特に発症後の早い段階で取り入れると高い効果が期待できます。

三角巾の使用時間を上手にコントロールすることも大切です。
たとえば、座っている間は三角巾を外し、代わりに腕をクッションなどの柔らかい支持物に置いておくことで、筋肉の活動を妨げずに済みます。

最後に、自分一人での運動が難しい場合には、家族や介助者の助けを借りて腕を動かしてもらうことも一つの方法です。
無理をせず、周囲と協力しながら取り組むことが回復への近道となります。

まとめ

三角巾は、脳卒中などの脳血管疾患後のリハビリにおいて、麻痺側の腕を保護し、生活の中での安全を保つための非常に有用な道具です。
しかし、その便利さゆえに、誤った使い方をしてしまうと関節の拘縮や筋力低下、姿勢の不安定などの弊害を招く恐れもあります。

大切なのは、「必要なときに、正しい方法で使うこと」
そして、三角巾を使いながらも、できる限り麻痺側の腕を動かし、筋力や可動域を保っていく努力を怠らないことです。
無理なく、でも前向きに進めていきましょう。

池田

執筆者:池田

理学療法士

理学療法士の池田です。
2018年に理学療法士免許を取得し大学を卒業後、回復期病院のリハビリテーション病棟にて勤務。2021年に急性期病院の脳外科病棟にて勤務。2022年に訪問リハビリにて勤務。2025年より脳神経リハビリHL堺にて勤務となります。
回復期病院では、疾患の知識や治療技術の勉強に励み、外部研修に積極的に参加。
急性期病院では、脳外科病棟にて勤務。脳血管疾患のリハビリに従事し、発症間もなくの患者様の回復状況を予測する為の研究に参加。
訪問リハビリでは、日常生活状況に合わせたリハビリや住宅環境の相談など介入。
リハビリでは、本人様にとって安心して出来る日常生活動作を増やして行くと共に、特に歩ける生活を大事にしたいと考えます。よりよい生活が送れるように全力で援助をさせて頂きます。