脳梗塞後の階段昇降【日常生活を取り戻すための挑戦と克服】

はじめに
「退院して自宅に戻ったけれど、階段を見るたびにため息が出てしまう…」
脳梗塞を経験された方にとって、階段の昇り降りは日常生活における大きな壁となることがあります。
かつては何気なく行っていた動作が、今では大きな負担や不安につながってしまう。
今回は、脳梗塞後に階段昇降が難しくなる理由を深く掘り下げ、その上で再び安心して階段を使えるようになるためのリハビリテーションの方法や工夫について、専門的な視点から分かりやすく解説していきます。

目次
- なぜ階段昇降はこんなにも難しいのか?脳梗塞後の身体に起こる変化
- もう一度、自分の力で階段を昇るために:段階的なリハビリテーション
- ロボットを活用した新しいリハビリテーション:より効果的な階段昇降の実現へ
なぜ階段昇降はこんなにも難しいのか?脳梗塞後の身体に起こる変化
階段の昇り降りが困難になる背景には、脳梗塞によって引き起こされた様々な身体的な制約が複雑に関わっています。
一つずつ、その要因を理解していきましょう。
1.思うように動かない、力が入らない:筋力低下
脳梗塞の影響により、手足の麻痺が生じることがあります。
特に下肢の筋力低下は、階段を一段一段持ち上げる動作を困難にします。
麻痺側の足に体重をかけることへの不安や踏み込む力の弱さが、安全な昇降を妨げる大きな要因となります。
2.ふらつきやバランスの悪さ:バランス能力の低下
階段の昇降は、常に重心が移動する不安定な状態で行われます。
脳梗塞後、バランスを保つための機能が低下すると特に降りる際に体が前に傾きやすくなり、転倒の危険性が高まります。
健側の足だけで体を支えようとすることで、さらにバランスを崩しやすくなることもあります。
3.スムーズな動きが難しい:運動制御の障害
階段を安全に昇降するためには、足や体の様々な部分を協調させて動かす必要があります。
脳梗塞によって運動をスムーズに行うための神経回路が影響を受けると足が思うように上がらなかったり、踏み出すタイミングがずれたりすることがあります。
これにより、ぎこちない動作となり安全な昇降が難しくなります。
4.どう動けば良いか分からない:動作の理解と実行の困難さ
階段を昇る際には「まずどちらの足を上げるか」「手すりをどのように使うか」といった一連の動作を理解し、それを実行する必要があります。
脳梗塞の影響により、これらの手順を覚えたり、判断したりすることが難しくなる場合があります。
5.怖いという気持ち:心理的な影響
過去に階段で転倒した経験がある方や自身の身体能力に自信がないと感じている方は、階段に対する強い不安感や恐怖心を抱くことがあります。
このような心理的な要因は、体を過度に緊張させ、実際にはできるはずの動作も難しくしてしまうことがあります。

もう一度、自分の力で階段を昇るために:段階的なリハビリテーション
脳梗塞後の階段昇降のリハビリテーションは、焦らず、段階的に進めていくことが重要です。
専門家の指導のもと、ご自身のペースに合わせて、少しずつ自信を取り戻していきましょう。
1.安全な環境での基礎練習:手すりの活用と足運びの練習
まずは、手すりをしっかりと掴み、一段ずつ確実に足を上げる練習から始めます。
昇る際には、より力が出しやすい健側の足から。
降りる際には、バランスを取りやすい麻痺側の足から出すことを意識しましょう。
最初は低い段差や、安定した環境で行い、徐々に段数を増やしていきます。
2.バランス感覚を取り戻す:重心移動の練習
階段の昇降にはスムーズな重心移動が不可欠です。
平らな場所での立ち上がり練習や体重移動の練習、軽いスクワットなどを通して、バランス感覚を養います。
また、段差を利用した軽いステップ運動も重心のコントロール能力を高めるのに役立ちます。
3.効率的な動作を身につける:昇降テクニックの習得
理学療法士や作業療法士から、階段昇降の適切なテクニックを学びます。
例えば、手すりの握り方、体の傾け方、足の運び方など安全かつ効率的に昇降するためのコツを習得します。
必要に応じて、杖などの補助具の効果的な使い方も練習します。
4.後ろ向きで降りるという選択肢:恐怖心を軽減する工夫
特に降りる際に不安が強い場合は、後ろ向きで降りる方法も有効です。
これにより、麻痺側の足が内側に巻き込まれるのを防ぎ、前方への転倒リスクを減らすことができます。
最初は介助者のもとで行い、慣れてきたら徐々に自分で行えるように練習します。
5.自宅環境の調整:安全性を高める工夫
自宅の階段に手すりがない場合は設置を検討しましょう。
滑り止めマットを設置したり、足元を照らす照明を増やすなど環境を整えることも重要なリハビリテーションの一環です。
6.自主トレーニングの継続:日常生活への自信
専門家の指導のもと、自宅でもできる自主トレーニングを取り入れましょう。
例えば、低い踏み台昇降や手すりにつかまっての階段昇降練習などを継続することで、日常生活における自信を高めることができます。

ロボットを活用した新しいリハビリテーション:より効果的な階段昇降の実現へ
近年では、ロボット技術を活用したリハビリテーションも注目されています。
ロボットは、麻痺した足の動きをアシストしたり、正しい動作を繰り返し練習したりするのに役立ちます。
これにより、より効率的に筋力やバランス能力を向上させ、階段昇降のスムーズさを取り戻すことが期待できます。
当院でも、最新のロボットリハビリテーション機器を導入し、患者様一人ひとりの状態に合わせた最適なリハビリテーションプログラムを提供しています。
まとめ
脳梗塞後の階段昇降は、確かに困難な課題です。
しかし、適切なリハビリテーションと工夫を行うことで、必ず乗り越えることができます。
焦らず、諦めずに、一歩ずつ前進していくことが大切です。
私たち理学療法士は、皆さんが再び安心して階段を昇り降りできるよう全力でサポートいたします。
どんな小さなことでも構いませんので、困っていることや不安なことを私たちに相談してください。
一緒に、再び快適な生活を取り戻しましょう。
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執筆者:池田
理学療法士
理学療法士の池田です。
2018年に理学療法士免許を取得し大学を卒業後、回復期病院のリハビリテーション病棟にて勤務。2021年に急性期病院の脳外科病棟にて勤務。2022年に訪問リハビリにて勤務。2025年より脳神経リハビリHL堺にて勤務となります。
回復期病院では、疾患の知識や治療技術の勉強に励み、外部研修に積極的に参加。
急性期病院では、脳外科病棟にて勤務。脳血管疾患のリハビリに従事し、発症間もなくの患者様の回復状況を予測する為の研究に参加。
訪問リハビリでは、日常生活状況に合わせたリハビリや住宅環境の相談など介入。
リハビリでは、本人様にとって安心して出来る日常生活動作を増やして行くと共に、特に歩ける生活を大事にしたいと考えます。よりよい生活が送れるように全力で援助をさせて頂きます。