注意障害とは? 〜症状・診断・リハビリ・生活への影響と支援まで〜

はじめに
注意障害とは、物事に集中したり必要な情報に注意を向けたりする力がうまく働かなくなる状態を指します。
この障害は、脳の「高次脳機能」と呼ばれる領域に関係しており、特に脳卒中や頭部外傷の後遺症として見られることが多いです。
一見すると「ちょっとボーっとしている」ように見えるかもしれませんが、注意障害がある方は周囲の刺激に左右されやすく、物事を計画的に進めることが難しくなるため、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。
今回は、脳血管疾患によくみられる注意障害について解説していきます。
目次
- 注意障害の主な症状と分類
- 診断はどのように行うのか?
- 日常生活に与える影響
- 社会的な支援と家族の役割

注意障害の主な症状と分類
注意障害にはいくつかのタイプがあり、それぞれ症状の現れ方が異なります。
たとえば、作業中にすぐ気が散ってしまう、同時に複数のことを進めるのが難しい、あるいは注意の切り替えがうまくできず、柔軟な対応が苦手になることがあります。
こうした症状は、以下の4つのタイプに分けられます。
- 持続性注意障害:集中力が長く続かず、作業中に何度も気が逸れてしまいます。
- 選択性注意障害:必要な情報だけを選んで注意を向けることができず、関係ないことにも気を取られてしまいます。
- 転換性注意障害:一つの作業に固執してしまい、別の作業に注意を切り替えるのが難しくなります。
- 配分性注意障害:複数の作業を同時に行うことが難しく、例えば「話しながら料理をする」といった日常のマルチタスクができなくなります。
このように、注意障害は一人ひとり異なる形で現れ、周囲からは見えにくい「見えない障害」として本人を苦しめることがあります。
診断はどのように行うのか?
注意障害の診断では、専門の神経心理学的検査を使って、脳の「注意をコントロールする機能」を詳しく調べていきます。
ただし、検査の数値だけでなく、日常生活での行動や様子も大切な手がかりになります。
- まず医療現場では、以下のような方法で診断を行います。
観察と面談
患者さんの普段の行動や、会話中の様子などを注意深く観察します。
また、家族や介護者から得られる情報も重要で、「最近ミスが増えた」「会話がかみ合わない」といった具体的なエピソードがヒントになります。
標準化された注意機能検査
例えば「TMT(Trail Making Test)」では、数字や文字を順番に線でつなぐ課題を通じて、注意の持続力や切り替え能力を見ていきます。
また「視覚的抹消検査」や「CAT(Clinical Assessment for Attention)」なども用いられ、聴覚や視覚、集中力の偏りなどが総合的に評価されます。
日常生活での評価
リハビリの現場では、日常生活での困りごとから注意障害を見つけていくこともあります。
たとえば、調理中に火を止め忘れる、必要な書類を探すのに時間がかかる、話を最後まで聞けないなどの行動から、注意力の問題が浮かび上がってきます。
リハビリではどんなことをするのか?
注意障害に対するリハビリでは、脳の注意機能を少しずつ「鍛え直す」ような取り組みを行います。
主な方法としては以下のようなものがあります。
まずは、集中しやすい環境作りが大切です。
テレビやスマートフォンの音を遮断した静かな空間で作業をすることで、注意が散りにくくなります。
作業は一つずつ丁寧に行い、同時に複数の作業をしないようにします。
加えて、こまめな休憩を取り入れることで、疲労による注意力の低下を防ぎます。
また、作業の途中で進捗をチェックする習慣を身につけることで、ミスを早めに発見できるようになります。
リハビリの内容は、一人ひとりの症状に合わせて計画されます。
例えば、ロボットやタブレットを用いた反復練習、注意力を必要とする軽作業を通じて、少しずつ脳の回復を促していきます。

日常生活に与える影響
注意障害は、実は日常のあらゆる場面に影響を及ぼします。
ときには「うっかりミス」として見過ごされがちですが、本人にとっては大きな負担になっています。
まず仕事や家事において、集中力が続かないために効率が下がり、ミスが多くなってしまいます。
たとえば、料理中に材料を入れ忘れたり、買い物リストを見落としたりといったことが日常的に起こります。
また、会話にも支障が出ることがあります。
注意がそれやすいため、相手の話を最後まで聞けなかったり、周囲の雑音に気を取られてしまったりして、誤解やすれ違いが生まれやすくなります。
加えて、「なぜできないのか分からない」と自信を失い、気分の落ち込みや不安を感じることもあります。
こうした心理的な負担もまた、注意障害の大きな一面です。
さらに、交通事故などの安全面のリスクも無視できません。
歩行中や運転中に注意が逸れることで、事故につながる危険があります。
社会的な支援と家族の役割
注意障害のリハビリや生活支援は、医療だけでなく、社会全体で支えていく必要があります。
まず、家族や周囲の理解と協力はとても重要です。
「なぜ注意できないのか」と責めるのではなく、「どうすれば集中しやすいか」を一緒に考えることが大切です。
たとえば、静かな環境を整えたり、タスクを一つずつ明確に指示することで、本人の能力を活かしやすくなります。
次に、医療機関やリハビリ施設の活用も大きな支えとなります。
注意障害に特化した訓練や環境設定を通して、少しずつ生活の中での困りごとを減らしていくことができます。
また、社会参加のための制度や取り組みも進んでいます。
障害者雇用の促進、バリアフリーの環境整備などにより、注意障害のある方も無理なく社会に関われるようになってきています。
そして最後に、学校や地域での啓発活動も欠かせません。
注意障害への理解を広げることで、偏見や誤解をなくし、誰もが暮らしやすい社会づくりにつながります。

まとめ
注意障害は、見た目には分かりにくいものですが、本人の生活には非常に大きな影響を及ぼします。
集中力や柔軟性が低下することで、仕事や日常生活のパフォーマンスが落ちたり、人間関係や安全面でのリスクが増えることもあります。
しかし、正しく診断され、リハビリや生活支援が適切に行われれば、注意障害は改善の可能性を持っています。
そのためには、本人だけでなく、家族や周囲の理解、そして社会的な支援の輪がとても重要です。
リハビリは焦らず、丁寧に、そして本人のペースを大切に進めることがカギとなります。
もし注意障害に悩んでいる方が身近にいるなら、まずは「分かろうとする気持ち」から始めてみてください。
それが支援の第一歩です。
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執筆者:池田
理学療法士
理学療法士の池田です。
2018年に理学療法士免許を取得し大学を卒業後、回復期病院のリハビリテーション病棟にて勤務。2021年に急性期病院の脳外科病棟にて勤務。2022年に訪問リハビリにて勤務。2025年より脳神経リハビリHL堺にて勤務となります。
回復期病院では、疾患の知識や治療技術の勉強に励み、外部研修に積極的に参加。
急性期病院では、脳外科病棟にて勤務。脳血管疾患のリハビリに従事し、発症間もなくの患者様の回復状況を予測する為の研究に参加。
訪問リハビリでは、日常生活状況に合わせたリハビリや住宅環境の相談など介入。
リハビリでは、本人様にとって安心して出来る日常生活動作を増やして行くと共に、特に歩ける生活を大事にしたいと考えます。よりよい生活が送れるように全力で援助をさせて頂きます。