脳血管疾患と感覚障害との関係性

はじめに
脳血管疾患、特に脳梗塞や脳出血といった病気は、私たちの脳に大きな影響を与えます。
これらの病気によって脳の血管が詰まったり破れたりすると、脳の細胞がダメージを受けて様々な機能に障害が起こることがあります。
その一つが「感覚障害」です。
本稿では、感覚障害に着目して解説していきます。

目次
- 脳血管疾患が身体に与える影響とは?
- 感覚障害はどのように現れるのか?
- 感覚障害はなぜリハビリが重要なのか?
- 感覚障害の発生率はどれくらい?
- リハビリは「今からでも遅くない」
脳血管疾患が身体に与える影響とは?
脳血管疾患とは、脳の血管に関わる病気のことを指します。
主なものに「脳梗塞(のうこうそく)」と「脳出血(のうしゅっけつ)」があります。
これらの疾患が起こると脳への血流が滞り、神経細胞が酸素不足でダメージを受けてしまいます。
脳は私たちの感覚や運動を司る大切な器官であるため、血管に異常が起きると身体のさまざまな働きに影響が出てしまうのです。
特に感覚の異常、例えば「手足がしびれる」「触っても感じづらい」「温かさや冷たさが分からない」といった症状が出ることがよくあります。
これは、神経がうまく信号を伝えられなくなった結果として起こる現象です。

感覚障害はどのように現れるのか?
脳血管疾患による感覚障害は、主に体の片側に集中して現れることが多いです。
たとえば、右の脳が損傷を受けた場合には左半身に症状が出るという具合です。
脳の中には「触覚」「温度感覚」「痛み」などを感知して伝えるルート(神経経路)があるのですが、そのルートの一部が損なわれると感覚が一部だけ失われる、またはずれて感じるようなこともあります。
これを「感覚の解離」と呼びます。
感覚の障害は多様で、以下のような種類があります。
- 外部感覚(触った感覚や温度の感知)
- 深部感覚(関節や筋肉の位置を感じる力)
- 痛覚(痛みの感知)
これらが障害されることで、日常生活のなかでの「違和感」や「不便さ」が大きくなるのです。
感覚障害はなぜリハビリが重要なのか?
感覚障害があると、「手に力を入れているつもりでもうまく持てない」「物を落としてしまう」といった問題が起こりやすくなります。
つまり、動かす力だけでなく、どれくらいの力で触れているのか、どんな形のものを持っているのかといった「感じ取る力」も私たちの動作には欠かせないのです。
そのため、感覚を回復させるためのリハビリテーションが非常に重要です。
研究によると、感覚を司る脳の部位がある程度保たれている人は、リハビリを通して運動機能の改善が見られやすい傾向があります。
つまり、「感覚が少しでも戻ると、動きもよくなる」可能性が高いのです。
感覚障害の発生率はどれくらい?
感覚障害は、脳卒中を経験した方の中でも非常に高い割合で発生します。
複数の研究によると、およそ50%〜80%の方が、なんらかの感覚障害を抱えていると報告されています。
ある研究では、感覚障害があった人のうち
- 外部感覚(触覚など)の障害:48%
- 深部感覚(関節の位置感覚など)の障害:42%
という結果が出ています。
このように、多くの方が経験する問題であるからこそ、しっかりと向き合っていくことが大切です。
リハビリは「今からでも遅くない」
「感覚が戻らないまま数ヶ月が経ったから、もう治らないのでは」と思う方もいるかもしれません。
しかし、感覚の回復は運動よりも遅れて進むことが多いため、あきらめないことが何より大切です。
特にロボットなどの先進的なリハビリ機器を活用することで、感覚の刺激と再学習を促すことも可能になっています。
私たち理学療法士が関わる際には、単に動かす練習だけでなく、「どう感じているか」を一緒に確認しながらリハビリを行います。
感覚の回復は地道な道のりですが、確実に前に進める分野です。

まとめ
脳血管疾患の後遺症として非常に多く見られる感覚障害は、日常生活に深く関わる重要な問題です。
しかし、感覚は「感じ方を再び学び直す」ことで回復が可能な能力でもあります。
適切な時期に、正しい方法で、継続的にリハビリを行うことによって、感覚も運動も取り戻せる可能性があります。
何より、「諦めずに取り組むこと」が、回復への一番の近道です。
リハビリは、ただの訓練ではありません。
生活の質を取り戻し、自分らしい人生をもう一度歩み出すための大切なステップです。
感覚障害と向き合うことは、その第一歩なのです。
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執筆者:池田
理学療法士
理学療法士の池田です。
2018年に理学療法士免許を取得し大学を卒業後、回復期病院のリハビリテーション病棟にて勤務。2021年に急性期病院の脳外科病棟にて勤務。2022年に訪問リハビリにて勤務。2025年より脳神経リハビリHL堺にて勤務となります。
回復期病院では、疾患の知識や治療技術の勉強に励み、外部研修に積極的に参加。
急性期病院では、脳外科病棟にて勤務。脳血管疾患のリハビリに従事し、発症間もなくの患者様の回復状況を予測する為の研究に参加。
訪問リハビリでは、日常生活状況に合わせたリハビリや住宅環境の相談など介入。
リハビリでは、本人様にとって安心して出来る日常生活動作を増やして行くと共に、特に歩ける生活を大事にしたいと考えます。よりよい生活が送れるように全力で援助をさせて頂きます。